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Section5 – パーフェクト!!
あっというまに何日も日が過ぎ去り、みるみるうちにヴェンガーソーの洋上ではかなりの規模を誇る大発展を遂げていった。
そして、依頼が終了となる日が訪れた――。
「完璧」
フラットキャンバスは頷いた。
彼女の眼前にはとても美しい光景が広がっている。拠点の木造建築やさまざまな花の咲き乱れる花壇。青々とした芝生の生い茂るグラウンド、子供のはしゃげそうないくつもの遊具。
それぞれ利便性も耐久性も申し分なく、一般的に言う『公園』の理想形とも呼べる風景だ。
ここまでのことを成し遂げたのもあり、きっとフラットキャンバスの無表情の奥にも達成感があるに違いない。きっと。
「どのくらいで来るのかな? あのおねーさん」
ニコラスは島の端で釣りをしながら呟いた。一応この海には魚もいるようで、そばにあるかなり大きな水槽では、十匹ほどの釣れた魚が泳いでいる。
『あのおねーさん』とは、今回の依頼者でもある人物だ。しばしば顔を合わせるのだが、どこか浮世離れした雰囲気を纏っていたのが記憶に新しい。
「そのうち来そうだけど」
「ははっ、もう来てるよ」
「うわー!?」
飛び上がったニコラスが海にダイブしかける。残念ながら針の近くにいた魚は逃げてしまった。
「まぁ、アイツは忙しいらしいから俺が代わりにだけどな」
「……ウィルバード」
花壇の近くでラベンダーを愛でていたのは、ツヤのある黒髪が特徴的な青年――ウィルバード・セレスラグスだった。
白いシャツに黒いズボン、上から下までモノクロームな出で立ちだ。背はかなり高いが、フラットキャンバスもニコラスもかなりの高さがあるためそう見上げる必要はなさそうだ。
ドの八分音符のネックレスが、キランと光を反射する。
「び、ビックリした~……。そんなとこまであのおねーさんに似なくていいんだよっ!」
「ははは」
悪びれもせず肩を竦めるウィルバード。
「いや、思ってた以上にすげー仕上がりだなぁ。建築の適正あるんじゃないか?」
「そりゃどうも……一週間潮風にさらされてたから、そろそろ帰って休みたい」
「はいはい、ちょっと待ってな。ニコラスももう戻るか?」
持っていたキューブ型の道具で、異世界への転移ゲートを構築し始めるウィルバード。ここでは魔法が使えないので、ウィルバードのような人物でもこのような特殊なものに頼る必要があるらしい。
「そだねー、誰かさんに釣りの邪魔されちゃったもん! ぷい」
「悪かったって、ゴメンゴメン」
水面から魚の影がきれいさっぱりいなくなっている。どうやらこの海域の小魚たちは、相当な臆病気質のようだった。
ニコラスは釣竿を片付けると、水槽を両手に抱えてゲートに近づく。
「……持って帰るのかい? ソレ」
「そりゃ~せっかく釣ったんだしね! みんなに見せなくっちゃ、にしし」
フラットキャンバスは鬱陶しそうに重い髪をわしゃわしゃして、一足先にゲートをくぐってしまった。
すぐにニコラスも大ジャンプでゲートに飛び込む。
そして依頼主から頼まれていた移送の仕事も終えたウィルバードは――
「……フン」
横目で青い空を睨んでから、自身もゲートをくぐったのだった。

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