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Ep.006 ~ 『ポールスター』
「……あ……ありがとうございます」
まだ状況の整理もつかないままに、私はひとまず礼を述べた。
『あしたは』と名乗ったゴリラは、あまり表情を変えずに「気にするな」とだけ素っ気なく返す。
起き上がるために取った手は大きく、とても力強かった。そして暖かい。
「ぐぉお……が……ぁ」
あしたはに殴り倒された男が悶え苦しんでいる。片方は気絶し、片方は意識はあれど起き上がれないようだ。
無様というかなんと言うか……私がさっき腰が抜けていたのは棚に上げておくとしよう。あんまり追求して面白いものでもないし。
「この人たちは……? いきなりこっちに襲いかかってきたわけだけど」
「分からない」
「分からない?」
困ったように表情を険しくするあしたは。
「たまにいるんだ、こういうのが。しかし……ここの鯖民では、おそらくない」
「え……?」
「どうやって入ってきたのか、まだ分からないことだらけだ。こいつらについて彼も調べようとしているが……進捗はまずまず、らしい」
あしたはの指差した先には、コンブをもぐもぐと食べているサーバーオーナーの姿があった。塩分過多で死ぬぞ。
私がふぅんと思っていると、突如気絶していた方の男がバシュン! と音を立てて弾け飛んでしまう。
「わーっへ!??!」
「おっと」
さ、さながら風船……。
飛び散った残骸もすぐに空中に溶けて消えてしまう。血は出ないし、なにも残らなかった。
「こいつらの共通点だ。絶命すると爆裂四散して消えてしまう……オーナーがBANするまでもなく」
「えぇ……」
ついでにあしたはがもう片方の頭部も殴り飛ばすと、そちらも派手に飛び散って消えてしまった。
「ともかく、あまり気にすることでもないし、そのうちオーナーたちが対応してくれるはずだ。俺達一般鯖民が気にするようなことじゃない」
「そ、そう……」
ぐるりと辺りを見回した後、あしたは「じゃあ、また」とだけ言ってどこかへ去ってしまった。
優しい人だったな。少しつっけんどんだが。
私も同じように辺りを見回したが、これからどうすればいいかが分からない。
疲れ果てていたはずが、いつの間にかずいぶんと体は軽くなっている。サーバーをもう少し見て回るか、あるいはそろそろおいとまするか……。
ふと、遠くでなにかが光った。あの方角にあるのは……山?
「ホーン……」
その正体不明の光がどういうわけか気になって仕方がない。
まぁ、たまにはこんな好奇心に任せてみるのも一興だろうか?
私はひとまず、その山へと向かってみることにした。


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