【連作短編】過日の遊戯に御空の風を SectionFin – ご傷心はお互い様に

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【連作短編】過日の遊戯に御空の風を Section5 - パーフェクト!!
◆前回はこちらSection5 - パーフェクト!! あっというまに何日も日が過ぎ去り、みるみるうちにヴェンガーソーの洋上ではかなりの規模を誇る大発展を遂げていった。 そして、依頼が終了となる日が訪れた――。「完璧」 フラットキャンバスは頷...

SectionFin – ご傷心はお互い様にステイン・スタイル

 ヴェンガーソーの海を眺めながら、ひとりの少年が寂しそうな表情を浮かべた。

「……」

 どこまでも続く青い海、そして雲ひとつない水晶のような大空。もしもこの景色を切り取れたのなら、どれほど美しいことだろう。

「よう。……突然で悪いが、『楽団』に、そしてアイツにケンカを売るのはやめておくべきだ」

「……!」

 突然背後からかけられた声に、少年が驚いたように振り向く。

 シンプルなデザインのパーカーに身を包んだ、黒い髪の少年だ。髪につけた白い花飾りは全体的な幼さも相まって可愛らしく映るが、頬の大きな傷跡、そして瞳に浮かぶ凶兆のクロスサインはどことなく不気味さもある。

 彼の手には一輪の白い花が握られていた。どこか造花のようにも見えるが、まぎれもない実物の花である。

「『碇滞晶カデラフィス』――花言葉は『崩れた理想』『挫けない勇気』『閉ざした眼』のみっつ。確かそんなだったっけ」

 ウィルバードはそう言った。表情は子供を諭すような優しいものだが、その眼の奥には鋭い気迫が隠れている。

 碇滞晶カデラフィスという花はほとんど目にすることはない物だが、魔法的な観点からすると『滅び』にこの上ない適性を誇る一種の触媒だ。下手をすれば国ひとつ、ひどいケースでは世界ひとつをまるまる陥落させかねない危険物でもある。

「よくご存じで……『魔勇者まゆうしゃ』ウィルバード・セレスラグスさん」

「はは、マイスサミカの外で古い方の称号を耳にするとはな。悪いけど楽団に入ってからは『魔勇者タンブレ・アブレ・リストワール』で通してるんだ」

「……」

 沈黙する少年。

「話を戻そう――やめておけ。俺やラッキャンたちはまぁいいだろうけどさ、『アイツ』が黙ってない」

「……残念ですが、これが僕の仕事なんです」

「そんなことをして何になると?」

「僕には知る必要がないことです。おそらくあなたにも」

 あっけらかんと言い放つその様子に、ウィルバードは少し目を丸くした。

 ここまで大きなコトを、まさか目的も知らずにやっているとは。無責任と言うべきだろうか……。

「そうかい、そいつは残念だね――」

「っ!」

 バキンッ!

 視認もできないほどの速度でウィルバードが迫り、手に持っていた碇滞晶カデラフィスの花弁を弾き飛ばす!

 いつの間にかその両手には、煌々と輝く双剣が握られていた。

「ふぅ――貴重なモノなんだろう? その花。あんま俺にもったいないことさせないでくれよな」

「……ちっ、『銀綴じる棘葉ヴァイス・リマインド』!」

「おっと?」

 空中を二重螺旋状の光が駆け巡り、ウィルバードを貫かんと向かう。この空間では魔法は使えないはずだが、どういうギミックか――。

「とはいっても、甘いな」

「ぐっ――」

 回避のついでに肉薄したウィルバードは、少年の腹部に肘打ちを一発叩き込んだ。吹き飛ばされるその体を、柔らかい芝生が受け止める。

 かなりピンポイントに急所を狙えたと思ったが、思っていた以上に少年はタフだったらしい。すぐに起き上がり、ウィルバードを静かに睨みつけた。

「かはっ……分かりました」

「お」

「ですがウィルバードさん。あなたは、この世界がどれほど危険なモノなのか、理解しているのですか?」

 少年から投げかけられた問いに、ウィルバードは一瞬言葉に詰まる。

「この世界は、旧き神々の戦争中に仕掛けられた『地雷』のひとつなんです。……無知な一般人が、好きなようにいじっていい代物ではない」

「地雷?」

「はい。……僕の名前は秋月あきづきミント、ある神から『過去の残響をほどくものマインスイーパー』の任を命じられたものです」

 神々の戦争中の地雷……。なるほど、彼はどうやら碇滞晶カデラフィスを用いることでこの世界を崩壊させ、危険物をすべて消し去るつもりだったようだ。

「僕は、無関係の他人が巻き込まれるのを黙って見ているつもりはない。だから約束してください――『もしヴェンガーソーが壊れたとしても、誰一人悲しませない』と」

「……ああ、もとよりそのつもりだよ。俺は『勇者』だからね」

 静かに目を閉じる秋月。少しだけ、糸の張りつめたような空気が和らいだ気がした。

「……ありがとうございます。それが聞けて少し安心出来ました」

 コトリ、と足元に小さなカギのようなものを置く秋月。

 金色で、かなりの厚みがある複雑な形状の鍵だ。見た目こそ純金のようだが、どうやらそうではなく特殊な魔法金属の類に見える。

「それは?」

「『凪海の想トリガーキー・VII』。この世界を管理するための、一種の権限の証です」

「……つまりそれがあれば、この世界を好きに操れるってことかい?」

「いえ、もう一段階の認証が必要になります。それが何かは、僕にもわかりません。でもいつか役に立つはずです、持っておいてください」

「分かった」

 最後に、秋月は頭に乗せていた学帽を外し、左胸にそっと添える。

「では。……またいつかお会いする時は、まだ敵ではないことを祈っています」

「俺もだよ」

 すぅ――と、フェードアウトするように秋月の姿が風へ消えた。それを見て、ウィルバードはなんとも形容しがたい不気味さに眉を顰める。

「……間違いなく手加減をしていたな、あいつ」

 もし秋月が本気を出していたのなら、ウィルバードではまったく敵わなかったはずだ。つまり、秋月はもとからこのヴェンガーソーを見逃すつもりでいた……?

 苦い後味に、ウィルバードは重いため息をつくのだった。

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